「人口減少」を「希望」に変える——創業100年へ...
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「ふえるわかめちゃん」だけじゃない——日本の“食”を陰で支える理研ビタミン 望月社長が描く未来戦略
ビジョナリー編集部 2026/10/05
「ふえるわかめちゃん」誕生から50周年、「リケンのノンオイル 青じそ」誕生から35年余り——日本の食卓に欠かせない数々のヒット商品を生み出してきた理研ビタミン株式会社。しかし、同社の真の姿はBtoC事業だけにとどまらない。パンや惣菜の美味しさを維持する「改良剤」などを通じて、世界の食品業界を支える“縁の下の力持ち”としての顔を持つ。
入社以来、海外事業の最前線で長年にわたり道を切り拓き、2025年に就任された望月敦社長は、独自の技術を核に環境問題や食品ロスなどの社会課題に挑み続けている。未利用資源を価値に変えるものづくりの精神から、自立した人材を育てる「自工程完結」「健全なる領域侵犯」というユニークな組織論、そして未来のリーダーたちへ繋ぐ揺るぎない意思決定の基準までを語っていただいた。
日本の食文化を支える「改良剤」事業
貴社はBtoC商品のイメージが強いですが、私たちが日頃口にする多くの食品に深く関わっていらっしゃると伺いました。
はい。スーパーマーケットなどで販売されているドレッシングやわかめスープなどの一般消費者向け事業が目立ちますが、実は当社のビジネスで圧倒的に大きいのは、学校給食や外食産業、スーパーの惣菜などに向けた業務用事業や加工食品産業にむけた改良剤の事業です。まさに食品業界における縁の下の力持ちのような存在と言えます。
例えばパンの改良剤です。コンビニエンスストアに並ぶサンドイッチが、時間が経ってもふんわり柔らかいのは、当社の改良剤が使われているからです。千葉県にあるアプリケーション&イノベーションセンターには、パンやケーキ、麺類など、ありとあらゆる食品を作れるミニチュアプラントがあり、日々お客様と一緒に課題を解決する提案を行っています。
さらに、改良剤は食品ロス(フードロス)の削減にも大きく貢献しています。コンビニエンスストアのレジ横で売られている唐揚げなどは、時間が経つと硬くなってしまいますが、当社の改良剤を使うことでサクッとした食感を長く維持できます。食品の劣化を防ぎ、品質を長く保つという効果により、食品の廃棄をぐっと減らせることは、まさにSDGsに直結する技術です。
また、食品そのものだけでなく、それを包むラップやトレイ向けの化成品改良剤も手掛けています。その代表例が「防曇剤(ぼうどんざい)」です。プラスチックに添加することで表面の曇りを防ぐことができます。例えばイチゴのパックでは、中身を見やすくするだけでなく、果実に水滴が落ちるのを抑え、傷みを防ぐことで鮮度保持にも役立っています。
自ら直訴して挑んだ海外事業の最前線。挫折から学んだ「顧客視点」
望月社長が長く関わってこられた海外事業でのご経験をお聞かせください。
入社当時、海外事業は全社の売上の3%にも満たない小さな部署でした。最初は貿易実務を担当しました。「これを極めるには9年かかる」と言われたのですが、とにかく早くできるようになりたい一心で、半年で仕事を覚えました。年末の忘年会で当時の社長に 「営業に出させてください!」と直訴 したところ、「そうか、それならやってみなさい」とすぐに担当を持たせてくれました。自ら変化を求め、本気で挑む人間には一歩踏み出すチャンスをくれる。それが当社の素晴らしい文化だと感じています。
その後、1990年代初頭にマレーシアの工場立ち上げとシンガポールの営業所立ち上げに参加しました。当時はインフラの整っていない厳しい環境でしたが、がむしゃらに挑戦し新規開拓をしていきました。ありとあらゆる可能性を追求するんだと、夢中になってやっていましたね。その結果、海外で次々と成果を出せるようになったのですが、いつしか「自分が一番仕事ができる」と思い込むようになっていました。そんな私が帰国後、自分の傲慢さを打ち砕かれ、見事に鼻をへし折られたんです。毎日のように呼び出されては厳しい叱咤激励を受ける日々で、当時は正直つらかったですね。でも今振り返ると、本当に有難い経験でした。それまでの私は自分の力だけで成果を出してきたつもりでしたが、実際には多くの人に支えられていたことに気づきました。その経験を通じて、周囲への感謝はもちろん、人を信頼して仕事を任せることの大切さも学びました。あの時に喝を入れてもらえたことは、今の私にとって大きな財産になっています。
日本に呼び戻されてからも私の挑戦心は消えず、数年後、再び海外へ挑戦したいという思いが募り、自ら「ヨーロッパとアメリカに事務所を作らせてほしい」と経営陣に提案し、ドイツに駐在することになりました。
海外でゼロから事業を立ち上げるための営業は泥臭いものでしたが、その経験を通じて学んだのは、 「自分が売りたいものを売るのではなく、目の前のお客様の課題を解決する」 ということです。私は常に「あなたの悩みをすべて教えてください。私が何としてでも解決してみせます」というスタンスでお客様に向き合っていました。海外で事業を開拓する中で築いた幅広いネットワークを活用し、自社製品が直接関係しない課題であっても解決策を探し続けたのです。そうした積み重ねが信頼関係の構築につながり、相手の商習慣や価値観を深く理解する貴重な経験にもなりました。
捨てられるものを価値に変える。SDGsを先取りした「もったいない」のDNA
今後、どのような成長シナリオを描かれていますか。
当社のルーツは、捨てられていた魚の肝臓からビタミンAを抽出することから始まりました。「抽出・精製・濃縮」「製剤化」 という技術が当社の軸です。
この考え方は今も根付いています。例えば、当社の主力であるホタテエキスやカツオエキスは、水産加工の過程で発生する副産物である「煮汁」を有効利用したものです。現在アメリカのラーメン店に納めている豚骨スープも、現地の食肉加工場で発生する骨を譲り受け、炊き出して濃縮したものです。誰も見向きもしなかった副産物を、独自の技術で価値あるものへ昇華させる。 これこそが時代を超えて受け継がれる当社のDNAです。
近年は気候変動や異常気象、原料高騰など様々な問題がありますが、私たちはこの環境の変化こそが新しい創造の機会だと捉えています。例えば、ある原料が不足すれば、それを補うための新しい機能を持つ改良剤やエキスを提供できる。これは当社の大きな強みです。
また、海水温の上昇などによってワカメの生産量が減っている問題に対しては、自社で種苗生産の研究を進めています。ワカメの種を陸上で育て、生育時期を分散させることで、安定的な生産につなげようとしているのです。
さらに私たちはこれまでの「わかめの理研ビタミン」から「海藻の理研ビタミン」へと進化しようとしています。
例えば、海藻によるCO2固定量の数値化に取り組んでいます。ブルーカーボンは世界的に注目が高まっているテーマです。商品を売るだけでなく、技術と機能で社会課題の解決に貢献するグローバルなスペシャリティ企業であり続けることが、私たちの目指す姿です。
「自工程完結」と「健全なる領域侵犯」。自ら考え動く組織のつくり方
若手メンバーの挑戦や人材育成において意識されていることはありますか。
当社のルーツである理化学研究所には、社会に寄与する研究課題を自ら見つけ、自由に追求していく「自由闊達」な風土がありました。しかし、会社が成長し規模が大きくなるにつれて、どこか守りに入る姿勢が増え、本来の野性味や成長を求めて新しいことにも挑戦しようとする貪欲さが少し薄れてきているように感じています。
そこで、私は社員に対して 「自工程完結」と「健全なる領域侵犯」 という言葉を繰り返し伝えています。「自工程完結」とは、自分の責任を果たすために、前工程から正しい情報を引き出し、後工程に確実なパスを渡すこと。営業なら、開発が迷わないだけの精度の高い情報を取ってくるということです。
そして「健全なる領域侵犯」とは、会社全体の最適化を考えて、他部署の領域にもあえて口を出すこと。邪魔をするためではなく、より良い仕事をするために踏み込んでいく。この2つを通じて、自ら考え、行動できる人をつくりたいと考えています。
さらに 「目標を口に出すこと」 も大切にしています。私は最近、社会人でありながらスーツ姿でチアダンスをするパフォーマンスグループ「チアリーマンズ」に注目をしているのですが、先日、彼らは5,000人の観客の前で、2年後までに「アメリカの有名オーディション番組に出る」「武道館で単独公演をやる」と堂々と宣言し、その目標に向かって突き進んでいます。大きな目標を、あえて口に出して自分を追い込む。その姿勢には私自身も大いに刺激を受けましたし、社員にも同じように、自分の目標を恐れずに言葉にして自らを突き動かしてほしいと伝えています。
簡単な道と厳しい道があったら、迷わず厳しい道を選ぶ
これだけは大事にしているという意思決定のポイントを教えてください。
ブレない基準はただ一つ、 「5年後、10年後の後輩たちに、自信を持って渡せる決断かどうか」 です。目の前の利益や売上ではなく、未来の理研ビタミンを本当に強くする決断なのかどうかを、常に自分に問いかけます。
そして、簡単な道と厳しい道があったら、迷わず「厳しい道」を選びます。少しでも違和感を覚えたり、気になったりしたことは徹底的に突き詰める。ここで私が目をつぶって楽な道を選べば、どこかに綻(ほころ)びが生じ、後輩たちに苦労を強いることになります。自分が変化することの痛みを、次の世代に押し付けるわけにはいきません。
私たちの使命は、今の厳しい課題を乗り越え、より強固な基盤を作ること。そして後輩たちには、私たちが作った土台の上で、さらに難しい新しい課題に挑戦してほしい。そうやって絶えず変化し続けることこそが、会社をより良くし、未来へと繋いでいく唯一の道だと信じています。


