
地球を未来に残すための挑戦(前編)
ビジョナリー編集部 2025/04/24
4/25(金)
2025年
ビジョナリー編集部 2025/04/24
月島ホールディングス株式会社の川﨑淳社長インタビューの後編をお送りする。上下水道設備のエキスパートは、民需分野でもEV用のバッテリー製造設備やバイオガス発電など、未来の地球環境を守る分野でも高い技術力を誇る。「会社はある必然性を持って存在しないといけない」と語り、熱意をもって優れた環境技術の数々を紹介する川﨑社長の言葉には、切迫する地球環境問題に正面から向き合う企業のトップとしての覚悟がにじみ出ていた。
今もいくつかの自治体さんから案件が出てきており、当社グループでは採算性を考慮しながら積極的に対応しています。施設の老朽化と運営する側の人員不足という課題を官民が連携して解決するPPP案件はもっと増えていくことでしょう。上下水道施設は大切な社会資本であるため、総じて堅牢な造りで、それにかかるコストも増大します。当社グループは民需向けのプラントや機器も手がけていますが、その視点から見れば、公共施設はコストや効率の面で工夫の余地が残っていると思います。施設をつくった後の維持管理についても同様です。元々設定した耐用年数があったとしても、丁寧に予防保全をしていれば、それ以上使い続けることが可能です。さらに、DXをうまく活用すれば、現場で起きている慢性的な人手不足の解消にもつながります。公共施設のコストが減れば、回り回って利用者も恩恵を受けることになります。PPPの意義とはそういうことなのだろうと思います。
足元ではEV熱が冷めていると言われていますが、BEVシフトが正しいのかどうか賛否両論があるのは当然のことです。一般に語られている航続距離や充電インフラの課題だけでなく、BEVは多くのバッテリーを搭載することで車両重量が増え、機械式駐車場が利用しにくいといった点も普及を妨げる一因となっています。ファミリータイプの車種でもおよそ200kg~500kgも車両重量が増える傾向にあります。とは言え、現在、実用化されているBEVは進化の過程にあり、実際のところ自動車業界は次世代電池に対する技術開発の手を緩めていません。
こうした劣勢を巻き返すカギとされるのが「全固体電池」です。電池の性能を決める要素の一つに「電解質」があります。既存のリチウムイオン電池では、液体の電解質をリチウムイオンがマイナスからプラスの電極へ移動することで電流が発生します。全固体電池も原理は同じですが、電解質が全て固体になるとイオンが通りにくくなるのが課題でした。しかし、そういった課題も研究者の方々の努力で解決方法が見つかり、実用化の目途が立っています。元々、可燃性の電解液を使うリチウムイオン電池は、引火すると激しく燃えるため、頑丈な金属の容器で守る必要があるので重くなります。急速充電時に発生した熱を抑える冷却装置も重量が増える一因となっています。対して全固体電池は燃えにくい電解質を使うので小型化や軽量化も可能になります。他方、当社が手がける正極材の原料となる前駆体の製造装置においては、更なる微粒子化技術のニーズが高まっていて、これも電池性能を上げる要素だからです。全固体電池が実用化できればBEVの普及は一気に高まるものと期待しています。
下水汚泥は良質なバイオマスの原料になります。下水は下水処理場で浄化され、発生した汚泥は濃縮されたのち、タンクで温度をかけて発酵させるとメタンガスが発生します。そのメタンガスから不純物を除去し、ガスエンジンで発電して電気を作ります。その電気は下水処理場内で使うほか、余剰分は売電もしています。実は公共事業の中でも下水道事業は大量の電力消費や温室効果ガスを発生していますので、こうした技術をもって創エネルギーの取り組みが進んでいます。
下水汚泥を燃やす焼却炉は消費電力が大きくて、燃やす過程でも温室効果ガスを発生させます。つまり、下水道事業の脱炭素を推進する上では焼却炉の進化が不可欠です。我われは従来比で温室効果ガスを99%削減可能な汚泥焼却炉を開発し、販売活動に注力しています。おかげさまでお客様の関心も大変多く寄せられているところです。これに前述のバイオマス発電を組み合わせれば、更なる温室効果ガスの削減を図ることが可能です。我われは長年下水汚泥と向き合ってきましたが、これほど経済合理性が高いバイオマスは他にないのではないかと考えています。バイオマスには下水汚泥などの廃棄物系、稲わらなどの未利用バイオマス、サトウキビなどの資源作物などがありますが、下水汚泥以外は収集・運搬の過程があります。ここに多くの苦労があって、それが克服できず事業化がとん挫するケースが多く見られます。その点、下水汚泥は下水道が網羅され、自然と下水処理場に集められます。原料としての量や性状も均質化しているのでバイオガス発電は有効です。導入コストも風力などに比べれば安価です。ただし、設置の条件として発酵タンクが必要になりますので、敷地に余裕がないといけません。お客様の導入実績を見ても、郊外の処理場に設置するケースが多いです。
会社は必然性を持って存在しないといけないと思っています。当社のパーパスと企業価値をつなぐ価値創造、パーパス経営を実践してまいりたいと考えています。我われの事業活動を通じて、世の中がどういう社会課題に直面しているのかを訴求していきたいと思います。