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渋谷の公立中が「メイクの授業」から導き出した、本質に迫る「深い学び」の答え
ビジョナリー編集部 2026/04/28
学校で「メイク」は教育か、タブーか? 公立中が踏み切った「眉毛の授業」が引き出す生徒の自主性
「学校」と「メイク」――。この2つの言葉は、今もなお校則で厳しく制限されることが多く、親和性が低いものと見なされがちだ。個性の尊重が叫ばれる現代社会においても、教育現場においてメイクは依然として「タブー」の領域にある。
しかし、文部科学省が「主体的・対話的で深い学び」を提唱し、教育の在り方が問われるなか、この壁を打ち破るユニークな試みが現れた。授業の一環として「メイク体験」を導入した公立中学校があるのだ。
産学の想いが合致し、実現に至った新たな学びのカタチ。その舞台裏について、渋谷区立原宿外苑中学校(当時)の駒崎彰一校長(※1)の視点から紐解いていく。
▲渋谷区立原宿外苑中学校・校長 駒崎彰一氏(※1)
(※1) インタビュー当時。現:渋谷区立代々木中学校・校長
「メイクは自己表現」伊勢半が中高生に伝えたい自由な価値観
学校とメイクを巡る環境には、奇妙な矛盾が存在する。多くの中学・高校では校則で禁止され、学ぶ機会すら与えられない。それにもかかわらず、一歩社会へ出れば「メイクは身だしなみ、マナー」として当然のように求められるのが現実だ。
こうした状況に一石を投じるのが、コーポレートブランド「KISSME」を展開する株式会社伊勢半だ。同社は「私らしさを、愛せるひとへ。」というメッセージを掲げ、メイクを「義務」ではなく、自分らしさを表現するための「自由なツール」と定義している。
▲2022年に開催した第1回KISSMEメイク部の様子。プロのメイクアップアーティストと一緒にメイクの楽しさを体感。
同社が取り組む「KISSMEメイク部」は、生徒たちが部活動のように楽しみながら、自分に合ったメイクを見つける場だという。また、2023年からは「眉毛ホームルーム」という活動もスタートさせている。
▲原宿外苑中学校で開催した眉毛ホームルームの様子。
これは、眉メイクブランド「ヘビーローテーション」が、眉の悩みを抱える中高生に対し、メイクを通じて自分に自信を持つきっかけを提供しようとする試みだ。男女を問わず、初心者でも挑戦しやすい眉マスカラを使い、自己表現の楽しさを体験してもらうことを目的としている。
原宿外苑中学校では、2024年に全校生徒約300名を対象とした「眉毛ホームルーム」を実施。さらに2025年には、新入生を対象に、メイクによる外見と内面の変化を体感し、「自己表現としてのメイク」を考える特別授業を継続している。なぜ、公立中学校がこれほど大胆な教育プログラムを導入したのだろうか。
▲近年男性ユーザーも増えている眉マスカラに男子生徒も含め全員でチャレンジ。
【News Release】KISSMEが「眉毛ホームルーム」を都内中学校にて開催 先生のメイク後の姿に 男女約100人の中学生が眉メイクに挑戦
駒崎校長が説く「本質に迫る」オーセンティックな学び
「学校とメイク」という、一見すると対極にある要素を掛け合わせた背景には、駒崎校長が掲げる「本物を見せる、本質に迫る」という教育哲学がある。
駒崎氏:「原宿外苑中学校は “Don’t think.Just do ! HarajukuGaien 'やっちゃえ 原宿外苑'” を合言葉に教育活動を展開しています。今回の伊勢半との取り組み以外にも積極的に企業や関連団体と連携して『授業』として様々な内容を取り入れています」
▲メイクによる印象変化を生徒たちに体感してもらうべく、日ごろ接している先生方にメイクを施します。
文部科学省が求める「深い学び」について、駒崎氏は「本質に迫ること」だと定義する。単なる知識の習得にとどまらず、それが社会とどう繋がっているのかを実感させる。そのための「本物の体験」として、メイクの授業は位置づけられた。
駒崎氏:「具体的には各教科の学びも、それぞれがどう社会に繋がっているのかを生徒たちに教えています。単に覚えるだけではなく、世の中の事象と重ねて考えるスキルを学ぶことで、頭に残る知識が将来活用できる知識となると考えています」

授業から生まれた「手話×メイク」という新たな探究
学校という枠組みを超え、企業のリアルな活動に触れることは、生徒たちに「課題解決」の視点をもたらすという。
駒崎氏:「従来の授業形式にとらわれない体験をさせていくと、課題解決の方法を生徒たちが自ら身に付けて、課題にアタックしていくようになります。そして自分なりに動き出し、探究学習に繋がっていきます。これはプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)という学習法で、決まったカリキュラムを淡々とこなすのではなく、自身で問題を発見、解決していくことに重きを置く方法です」
伊勢半の「メイクは自由な自己表現」という理念に触れた生徒たちは、驚くほど真摯に、そして積極的に授業に向き合ったという。
▲普段はメイクをしないという2名の先生がメイクを施した姿で登場。生徒たちはいつもと違う姿に驚き。
驚くべきは、その後の展開だ。この授業をきっかけに、「自己表現は共生社会を歩む励みになる」と気づいた生徒たちから、新たなアイデアが生まれた。同校が主催するイベント「原リンピック」において、生徒自らが「手話×メイク」の体験ブースを企画したのだ。この提案を受けた伊勢半が「KISSMEメイク部」として協力し、多様性を表現する新たな取り組みへと発展した。
【News Release】メイクに触れるきっかけを作り好きなメイクを楽しむ KISSMEメイク部 中学生のアイデアをもとに「手話×メイク」で多様性を表現
▲2024年6月に実施したイベント「原リンピック」での出張KISSMEメイク部
「校則がない」学校が見据える、自律した生徒の育成
原宿外苑中学校には、公立校としては極めて珍しく、細かい校則も生徒手帳すらも存在しない。これこそが「自ら体験し、自ら考え、自ら判断する」という自律性を育むための環境づくりなのだと駒崎氏は語る。
駒崎氏:「校則がないので、これまでもメイクをして登校している生徒もいました。しかし、受験を控える時期になると生徒自らTPOを考えメイクをしなくなるなど、自主的な行動も見られます。生徒たちにある程度の判断を任せても問題ないと感じています」
一足飛びに校則を撤廃するのではなく、例えば行事の際に土足登校を認めるなど、段階的に「当たり前」を見直してきたという駒崎氏。生徒を主体に据えた対話の積み重ねが、メイクという自由な表現を受け入れる土壌を作ったのだ。

「メイクをしないのも一つの自己表現」という生徒の意見を例に挙げながら、駒崎氏はこう締めくくる。「大切なのは、メイクをするかしないかではなく、どのような自分を表現したいのかを自ら考えること」。多感な時期に、あえて社会的な「矛盾」としてのメイクに向き合う機会を作ることは、大人が子供たちに提供できる貴重な学びのきっかけとなるはずだ。

眉の色を少し変える、リップを塗ってみる。そんな小さな好奇心から始まる自己表現が、生徒たちの内面に前向きな変化をもたらしていく。伊勢半は、化粧品メーカーとしてこれからも、生徒たちの自主性と自律性を育む教育活動を模索し続けていくという。


