「道徳銀行」が描く地域の未来。埼玉りそな銀行・篠...
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固定観念を捨てる柔軟さ ——初競りマグロの「分ける喜び」と、若い世代へつなぐ挑戦
木村 清 2026/09/20
以前もお話した、正月の初競りでその年の最高値となる「一番マグロ」を落札する様子は、長年にわたり新春の風物詩として多くの方々に親しまれてきました。2019年には大間産の本マグロを3億3,360万円で競り落として大きな話題を呼びましたが、極上の本マグロを巡る競り場の熱気と真剣勝負は、現在も衰えていません。2026年も激しい競り合いの末、5億円超という驚くべき高額で最高級の本マグロを落札し、ギネス世界記録(※初競り最高額落札記録)に認定されることとなりました。
競りの現場でキロ単価の金額が次々と跳ね上がっていく瞬間は、百戦錬磨の私であっても、ドキドキと胸が高鳴る独特の緊張感に包まれます。競り合う相手も本気ですから、その真剣勝負には深い敬意を抱いています。
私がそこまでして初競りに挑むのは、宣伝や話題性のためではありません。過酷な海に出て、命がけでマグロを獲ってくる漁師さんたちを含めた水産業を活気づけるとともに、物価高騰に苦しみ、将来への不安を抱える国民に明るいニュースを届け、日本全体を元気にしたいという強い想いがあるからです。
市場の現場で現物を直接手にとり、その身質や脂の乗り、手触りを確認して商売人としての「食指」が動く最高のマグロを目にすると、「何としてもこれを仕入れて、お客様に届けて喜んでもらいたい」という情熱が勝ってしまうのです。
そして何より大切にしているのは、どれほど巨額で落札した最高級の初物マグロであっても、店舗では普段と変わらない、手の届く価格で提供し続けることです。
周りからは「高値で仕入れたのだから、その分高く売ればいいのに」と言われることもあります。しかし、1年間しっかりお店で仕事をさせていただく中で商売の回収を行えばよいのであり、せっかくの縁起物である初物で値段を跳ね上げてしまっては、楽しみにお越しくださるお客様をガッカリさせてしまうことになります。
「一人で食べればそれまでだが、切り分けて全員で食べれば、美味しさも喜びも何倍にも膨らむ」
幼少期、父親を交通事故で亡くして貧しさにあえぐ中、母が冠婚葬祭の席から持ち帰ってくれたわずか2切れのマグロを、家族4人でサイの目に切り分けて食べたあの「分ければ余る」の教えこそが、私の商売の絶対的な原点にあります。高価な初物マグロであっても、一人でも多くのお客様に召し上がっていただき、同じ笑顔で感動を分かち合っていただくこと以上に、商売人としての喜びはありません。
「すしざんまい本店」を築地にオープンさせてから25年以上の歳月が流れましたが、私たちが常に成長を続けてこられたのは、この原点を守り続けると同時に「過去の成功体験や固定観念に縛られない柔軟さ」を持ち続けてきたからです。
平成13(2001)年に日本初の24時間営業・年中無休の寿司店を始めた時も、最初は「そんなの上手くいくわけがない」と業界から嘲笑されました。しかし、お客様の利便性を第一に考え、不透明だった「時価」を廃止して明朗会計や安心して入りやすい店づくりを徹底したからこそ、新しい寿司文化を創り出すことができたのです。
その想いは、時代が移り変わった今もまったく変わりません。近年では、YouTubeやSNSでの積極的な発信をはじめ、不動産情報ポータルサイト「LIFULL HOME'S(ホームズ)」でのCM出演や、Z世代に圧倒的な人気を誇るアイドルグループ「CUTIE STREET」との広告展開、さらには世界的人気ゲーム「龍が如く」シリーズへのキャラクター登場など、若者や異業種との斬新なコラボレーションを実現させてきました。
こうした取り組みの多くは、ありがたいことに、「ぜひ木村社長と一緒に面白いことをやりたい」と熱烈なお声がけをいただいたことから始まっています。
「自分は寿司屋の社長だから」「若い世代の流行だから」と自分の殻に閉じこもり、年齢や業界の枠で線を引いて区別した瞬間、人間としての成長も進化も止まってしまいます。もちろん、時には香港の強烈な冷房で夏風邪をこじらせ、20日間も体調を崩してしまうような失敗もありました。しかし、そんな時でもプライベートドクターのアドバイスに耳を傾け、台湾で食べた温かいお粥で胃腸を休めてぐっすり眠れば、翌朝5時には再び元気いっぱいに飛び起きることができるのです。
常に心と身体を柔軟に保ち、疲れたら休んで体力を戻し、新しいものへ「面白そうだな、やってみよう」と素直に好奇心を寄せ続ける姿勢こそが、いつの時代も若い世代を引きつけ、時代を切り拓くエネルギーとなります。
伝統の枠に固執することなく、お客様が喜び、世の中が明るくなることにはどこまでも柔軟に挑み続ける。初競りマグロの「分かち合う喜び」を胸に、これからも世代や国境を超えて世界中の人々に笑顔と情熱を届け続けていきます。


