鹿島学園サッカー部大躍進の裏にあった「鈴木雅人監...
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「監督が一番変わっていっている」鹿島学園・鈴木雅人監督がたどり着いた最強の“自己否定”
ビジョナリー編集部 2026/01/12
第104回全国高校サッカー選手権大会、初優勝。歓喜の輪の中心で、宙を舞った指揮官・鈴木雅人監督。就任から25年、鹿島学園を「無名校」から「全国王者」へと変貌させた。だが、その道のりは一直線のサクセスストーリーではない。そこにあったのは、若き日の奮闘、成功体験との決別、そして自らの指導論を根本から覆すパラダイムシフトの連続だった。なぜ鈴木監督は、25年間も情熱を燃やし続けられたのか。そして、なぜ変わり続けることができたのか。その核心に迫る。
なぜ無名校へ?25歳の若者が挑んだ何もないところからの挑戦
時計は2001年。当時25歳だった青年は、ある友人に話をした。「鹿島学園という無名チームから声がかかり、3年で全国に行ける自信があるなら、監督を任せるというオファーが来ている」。
友人は迷いなく、次のように言った。
「実績もない高校でも、雅人なら3年あればできる。全国に出場するためなら、最大限に支援をすると言ってくれたのであれば、行くべきだ。雅人のサッカー論を証明できるのは、無名の高校を全国に連れて行き、優勝に導くことだ。俺も応援する!」
その言葉に背中を押され、ゼロからのスタートを切り、縁もゆかりもない茨城の地へ足を踏み入れた。寮に住み込み、なりふり構わず生徒集めに奔走し、環境整備に汗を流した。初期の指導スタイルは、まさに「昭和の猛烈社員」そのものだ。朝昼晩、1日8時間を超える練習。怒号を飛ばし、選手を管理し、勝利を渇望する。その凄まじい熱量は、短期間でチームを県の上位へと押し上げた。結果が出たのだ。
若き指導者は確信した。「これでいい。俺のやり方は間違っていない」と。だが、この成功体験こそが、後に自身を苦しめる足枷となることを、当時はまだ知らない。
成功体験を捨てる勇気。スペインで砕け散った「勝利至上主義」
転機は27歳の時、突然訪れた。 初めてのスペイン遠征。そこで鈴木監督が目にしたのは、自身が信じてきたものとは真逆の光景だった。
選手を「管理する駒」ではなく、「一人の人間」として尊重する文化。ミスを叱責するのではなく、対話で解決する指導者。そこには、勝利至上主義の先にある、人権や個の尊厳を前提としたフットボールの姿があった。
「自身のやり方は、本当に正しかったのだろうか。」
結果は出している。だが、それは選手を犠牲にした上での成果ではないか――帰国後、鈴木監督の中に生まれた静かな疑念は、やがて確信へと変わる。結果、自らの成功体験をアンラーニング(学習棄却)する道を選んだ。「上意下達」から「対話」へ。「管理」から「自立」へ。それは、実績ある指導者にとって、身を削るような自己変革だったはずだ。
「監督が一番、変わった」——OBたちが語る、アップデートし続けるリーダー像
鈴木監督の25年を最もよく知る証人、それは歴代のOBたちだ。 初期の教え子たちは口を揃える。
「正直、めちゃくちゃ厳しかった。でも、本気だった」
初陣でのPK戦負け。悔しさを隠そうともせず、選手と共に泥にまみれた若き日の監督。 その不器用だが真っ直ぐな情熱があったからこそ、選手たちはついていった。そして、近年のOBたちはこう語る。
「監督が一番、変わっていっています」
かつてはキャプテン一人に責任を負わせていたが、今では副キャプテンを複数置き、下級生にも役割を与える。「お前はダメだ」と切り捨てるのではなく、面談を重ねて「何が足りないのか」を一緒に言語化する。時代に合わせ、選手に合わせて、自分のOSをアップデートし続けている。完璧なカリスマではない。悩み、迷い、学び続けるその「未完成な姿」こそが、選手たちに「自分も変われる」という勇気を与えているのだ。
「いい男になれ」。サッカーの勝敗を超えた、人生の勝利条件
25年間、鈴木監督が一貫して選手に伝え続けてきた言葉がある。
「いい男になれ」
今の時代には、少し古風に響くかもしれない。だが、その言葉には普遍的な真理が込められている。サッカー人生は、いつかは終わりが来る。だが、人生は続く。理不尽な状況でも逃げない強さ、仲間のために走れる優しさ、自分の頭で考える知性。それらを持った「魅力的な人間」になることこそが、大会の優勝以上に尊い価値なのだと。
かつてその言葉の意味を理解できなかった少年たちは今、社会に出て、仕事や家庭を持ち、ふとした瞬間に気づく。「あの時、監督が言っていたのは、こういうことだったのか」と。
25年かけて築き上げた「鹿島学園イズム」。それは単なる勝利のメソッドではない。サッカーというスポーツを通じて、一人の人間を成熟させるための、壮大な教育の物語である。初優勝という栄光は、その物語の通過点に過ぎない。


