「道徳銀行」が描く地域の未来。埼玉りそな銀行・篠...
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「ドラえもんのポケット」が生んだイノベーション ——現場の不条理を突破する即実行の美学
木村 清 2026/09/23
「経営者になってよかったと思う瞬間はいつですか」と問われることがあります。しかし、私にとって最初から起業家であり経営者であったため、特別な瞬間というよりも、「頭の中で描いたイメージやアイデアが、自分の手で現実のカタチとなり、動き出して本物になっていく過程」そのものが、何よりの醍醐味であり喜びだと感じています。
私の頭の中には、言ってみれば「ドラえもんのポケット」のようなものがあります。
「あんなものがあったらいいな」「こんな仕組みがあれば便利だな」という好奇心やアイデアが次々と湧き出てくるのです。そして、そのアイデアの出発点は常に「世の中で人が困っていること」や「誰かが不便を感じていること」にあります。
松下幸之助さんが家事の負担を減らすために洗濯機を作り、暑さに困る人々のために扇風機を開発したように、ビジネスの本質とは「困っている人の課題を解決し、喜んでもらうこと」にほかなりません。
20代の頃に開発した「温かいお弁当(ほか弁の先駆け)」も、「冷たい弁当しかなく、お米の消費が落ち込んで困っている」という社会課題からスタートしました。「温かい弁当など売ってはならない」という当時の行政の厳しい規制に対し、「なぜダメなのか? なぜ? なぜ?」と限界まで通い詰めて問い続け、菌の繁殖を防ぐ2時間ルールという解決策を編み出して、規制の壁を突破したのです。
そして、世界を驚かせた「備蓄マグロ」も、実は最初から狙って成功したわけではなく、現場での「ひょうたんから駒」のような劇的な発見から生まれました。
かつてオーストラリアなどの巻き網漁では、一網打尽に捕獲した数百匹の巨大マグロを一気に網で絞り上げて引き揚げていました。しかし、一気に網を絞るとマグロ同士が衝突して傷がつき、暴れて体温が上がり身がスカスカになる「焼け」が発生したり、下敷きになって潰れたりして、せっかくの最高級マグロが缶詰用の安い肉に成り下がってしまうという大きな不条理があったのです。私はこの問題を解決するため、考えました。
「台無しになる前に、一旦生簀(いけす)へ移し、毎日必要な分だけ少しずつ取り揚げて出荷すればいいのではないか」
周囲の漁師や専門家からは「マグロは時速100キロ以上で泳ぐ回遊魚だ。生簀の網に激突して死んでしまう」「そんな場所に閉じ込めたら絶対に餌など食べない」と猛反対されたため、自費で代金を負担し、捕獲したマグロを生簀へ入れました。
しかし、実際に生簀へ入れてみると、マグロは網に激突することなく元気に泳ぎ回り始めました。最初の1週間ほどは環境の変化から一切餌を食べませんでしたが、じっと観察を続けながら毎日根気強く餌を投げ与えていると、ある日、一匹のマグロがパクッと餌を口にしたのです。すると、それを合図にするかのように、すべてのマグロがいっせいに活発に餌を食べ始めました。
「自然に近い状態で品質を保つために生簀に入れたマグロが、餌を食べて生簀の中で活き活きと生きている——。これなら一時的な保管どころか、長期間保護・育成して備蓄できるぞ!」
さらに驚くべきことに、安全な生簀の中で静かに環境を整えてやると、マグロたちが次々と自然産卵を始め、海面がまるで入浴剤を入れたかのように白く濁るほどの「集団お見合い」が始まったのです。自然界では外敵に食べられてしまう稚魚が、生簀の安全な環境によって10倍、20倍もの確率で無事に成長していく。資源を減らすどころか劇的に増やしながら、年間を通して極上の天然マグロを出荷できる「備蓄マグロ」という前代未聞のイノベーションは、こうした現場での泥臭い試行錯誤と発見から誕生しました。
人生も経営も、100%思い通りにいくことなどあり得ません。バブル崩壊の時に銀行に裏切られ、どん底の時も、私は「まあ、リアカーでも引いて出直すか」と笑い、手元に残った200万円で10坪の小さな「喜よ寿司」を作って再起を図りました。
頭で理屈をこねて、何も行動しなければ、イノベーションを起こすことはできません。成功するか失敗するかなど、実際に動いてやってみなければ分かりません。失敗を恐れず、好奇心のままに身体を動かし、現場で泥をかぶりながら次の一手を打ち続けること。この「即実行」の情熱こそが、どんな困難をも突破し、新しい時代を切り拓くイノベーションの神髄なのです。


