「道徳銀行」が描く地域の未来。埼玉りそな銀行・篠...
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「常識」という壁を壊せ ——常識破りのアイデアと情熱を生んだ原体験
木村 清 2026/09/26
これから新しい挑戦を始めようとしている皆さんに、お伝えしたい心得があります。それは「業界の常識や固定観念にとらわれない」ということです。世の中で「できない」「無理だ」と決めつけられている常識の枠を壊した瞬間にこそ、誰も見たことがない新たな価値は生まれます。
私自身、かつて司法試験の勉強資金を稼ぐために水産業界へ飛び込み、大洋漁業(現マルハニチロ)関連の新洋商事に入社した昭和49年当時、業界に蔓延していた、非常識なまでの「捨て文化」に大きな疑問を抱きました。
例えば当時、足が1本欠けているタコは「商品価値がない」と廃棄されていました。しかし、「スライスして寿司ネタにすれば味も品質も変わらない」と考え、安価で買い取って寿司店へ提案したところ、仕入れコストを抑えたいお店から注文が殺到しました。また、捨てられ処分費までかかっていた高級イカ・モンゴウイカの「耳」をすり身にして竹輪に練り込み、絶妙な旨味のヒット商品に変えたこともあります。
「捨てられる命にアイデアで息を吹き込み、安くて美味しい食としてお客様を喜ばせる」——。この商売の本質的な面白さに没頭する中で、大学の担当教授から「君は弁護士になるより、将来起業家になって弁護士を使う立場になりなさい」と背中を押され、私は一生をビジネスの世界に捧げる覚悟を決めたのです。
当時の私の働きぶりは、自衛隊時代の「倒れるなら前へ倒れろ」の教えそのものでした。睡眠1時間半で2トントラックに実質6トンもの荷物を満載して砂利道を爆走。朝は築地、昼は浦和や大宮へ営業、夜は伝票整理——。自分を極限まで追い込む怒涛の日々の中で、深夜の中野で食べた1杯の温かい「モツ煮」の味が、「食べるものは人を幸せにする」という情熱を、私に刻み込んでくれました。
27歳で「木村商店」として独立を果たした時も、私の原点は常に「目の前の人を喜ばせる常識破りのアイデア」にありました。
手元に資金がない中、「1日(ついたち)決済」という高速で資金を回転させるルールを考案して利益を生み出し、挑戦したのが、以前もお伝えした日本初の「温かいお弁当」事業です。冷めたお弁当が当たり前だった時代に、「家庭の愛妻弁当のように温かいご飯を食べてもらいたい」と挑んだのですが、保健所からは理由も知らされず、許可が下りませんでした。それでも何度も通い、ようやく「菌が繁殖するから」と教えられました。
そこで弁当に発生する菌について徹底的に研究し、「調理から2時間以内に提供する」という厳格な配送フローを構築して認可を取り、さらには「2時間過ぎたら食中毒の可能性があるので正露丸と戒名もご用意しています」という命がけのユーモアを交えた宣伝によって、販売予定500食のところ、5,000食を売り上げる爆発的ヒットを生み出しました。
実は、この「温かいお弁当」への強いこだわりには、私の切ない幼少期の原体験がありました。
小学生の頃、私の学校には弁当を温める「保温箱」がありました。授業中に教室内に海苔やカツオ節の良い匂いが漂う中、私の弁当箱には田舎特有の匂いが強い「たくあん」が入っていたのです。クラスの皆から「臭い」と言われ、私は自分の弁当を保温箱に入れることができず、いつも周りを羨みながら冷たい弁当を食べていました。するとある時から、異変に気づいた母が、臭わない「桜大根」に変えて弁当に入れてくれるようになったのです。母の優しさと、「温かいご飯を食べたい」と願っていたあの頃の思いが、時を超えて「温かいお弁当事業」という新たなイノベーションへと昇華した瞬間でした。
常識を破る発想は、食品の枠も飛び越えていきました。港で余っていたコンテナを安く買い取り、モーテルの運営をしようと考えました。しかし、オープンの前日に風俗営業の許可が必要なことがわかり、やむなくこれを断念。急遽コンテナに防音施工を施してソファと台所、冷蔵庫、カラオケセットなどを入れ、「カラオケスナック」に切り替えました。これが地上げで店舗を失っていた事業者から好評を博し、瞬く間に300室以上の大事業となりました。バブル前夜に国内初となる「レンタルビデオ店」をチェーン展開した際も、手書き管理が限界を迎えると、自らプログラミングに加わり2カ月で独自の在庫管理システムを完成させて課題を突破しました。
早朝3時に築地で魚を仕入れ、日中は営業とシステム開発、夜はカラオケ店の手伝い——。手掛けた事業が広がっていく過程は、心躍り、楽しくて仕方がありませんでした。
事業の成功やイノベーションとは、決して難しい理論から生まれるものではありません。自衛隊での極限体験、水産や物流の現場で直面した疑問、そして幼い頃の切なさや母の温もりといった「原体験」が、諦めない情熱と結びついた時にこそ生まれるのです。
壁にぶつかった時こそ、「本当にその常識は正しいのか?」と自分に問いかけてみてください。目の前の誰かを笑顔にしたいという純粋な情熱と、現場で自ら身体を動かす泥臭さがある限り、どんな時代であってもあなただけの道は必ず切り拓かれていきます。


