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    「サッカー場は単なる練習場ではない」――創部25年で国立の舞台へ、鹿島学園・鈴木雅人監督が描く“欧州型”コミュニティ論

    「サッカー場は単なる練習場ではない」――創部25年で国立の舞台へ、鹿島学園・鈴木雅人監督が描く“欧州型”コミュニティ論

     2026年1月、第104回全国高校サッカー選手権大会。茨城県代表の鹿島学園は、準優勝という過去最高の成績を達成した。
    かつては県大会初戦敗退の無名校だった同校。2001年の就任以来、25年にわたり指揮を執り、日本代表のエース・上田綺世らを輩出してきた鈴木雅人監督は、いかにしてチームを全国常連校へと導いたのか。 その強化の裏には、最新AIの導入や戦術論だけでなく、スペイン遠征で培った「フットボール文化」への深い洞察と、グラウンドを単なる設備ではなく「地域コミュニティの核」と捉える独自の哲学があった。大会の熱気冷めやらぬ中、鈴木監督にこれからのビジョンと組織作りの原点を聞いた。

    「観られる」ことで文化は育つ。スペインで見た理想の風景

    鹿島学園のグラウンドには、観客席として石段が整備されています。高校の設備としては珍しいですが、そこにはどのような意図があるのでしょうか。

     私がグラウンドづくりにおいてこだわったのは、単に「ボールを蹴る場所」を作るのではなく、「フットボールという文化を楽しむ機能」を持たせることでした。もちろん、ピッチさえあれば練習や試合はできます。しかし、私はそこにどうしても観客席を作りたかった。誰もが気軽に試合を観戦し、プレーについてあれこれと意見を言い合える、そんな空間が必要だと考えたからです。

     石段の観客席があれば、高校生の試合だけでなく、女子チームや中学生、小学生の試合が行われている時でも、人々が自然と集まることができます。コロナ禍以前にはコーヒーを提供するサービスも行っており、地域の方が石段に腰掛け、コーヒーを片手に試合を楽しむ光景がありました。

     私が目指しているのは、フットボールを中心としたコミュニティや文化の醸成です。学校という制約上、「やりすぎるな」とご指摘を受けることもありますが(笑)、土日に地域の方々がふらっと立ち寄り、日常の一部として試合を観戦できる場所を提供し続けたいという思いは変わりません。

    そうした発想は、20年以上続けているスペイン遠征の影響が大きいのでしょうか。

     間違いなくありますね。鹿島学園では21年連続でスペイン遠征を実施していますが、現地ではサッカーが地域社会に深く根付いていることを肌で感じます。例えば、障害者の方々を招いたサッカー教室が開かれていたり、老若男女が当たり前のようにクラブに出入りしていたりと、サッカーが生活の一部として「身近な存在」になっているのです。

     そうした光景を見るにつけ、日本でも同様のコミュニティを作れるのではないか、と考えるようになりました。閉鎖的な空間で黙々と練習するのではなく、開かれた場所で、多くの人の目に触れながらフットボールに取り組む環境を作ること。それが、私たちが海外の文化から学び、取り入れようとしている要素の一つです。

    「プレッシャー」は育成の肥料になる

    「人に見られる環境」というのは、選手の育成においても重要な意味を持つのでしょうか。

     非常に重要です。日常的に「人に見られながらプレーする」ことは、選手にとって何よりのトレーニングになります。

     全国大会のような大舞台では、大勢の観客やメディアの視線に晒されます。普段、閉ざされた環境でしかプレーしていない選手は、そうした緊張感の中で実力を発揮できず、萎縮してしまうことがあります。しかし、日頃から地域の方々に見守られ、あるいは厳しい視線にさらされていれば、それが耐性となり、どのような状況でも自分たちの力を発揮できるメンタリティが育まれます。

     また、地元の方々に愛着を持ってもらうことは、選手のモチベーションに直結します。「自分たちは地域に応援されている」という実感があれば、全国大会に出場した時の喜びもひとしおですし、選手たちのやりがいも大きくなる。地域との一体感が生む相乗効果は、チームの強化において欠かせない要素だと考えています。

    地域の子供たちが育ち、羽ばたく「エコシステム」を作る

    地域との連携について、具体的にどのような活動をされていますか。

     私たちは「カシマアカデミー」という地域密着型のクラブを運営し、ジュニア世代から高校生までを一貫して育成する仕組みを構築しています。せっかく2面のグラウンドとナイター設備があるのですから、これを高校生だけで独占するのではなく、地域の子どもたちに最大限活用してもらいたいのです。

     私の願いは、地域の子どもたちがこのグラウンドで育ち、鹿島学園を経て、世界へ羽ばたいていくというサイクルを作ることです。小学生、中学生、そして高校生の男女が、同じ場所で賑やかにボールを追いかける。そうした環境を提供することで、子どもたちに「ここで成長したい」と思ってもらえるような場所にしていきたいと考えています。

    夢は「サッカー場」を超えた「地域のハブ」になること

    最後に、今後のビジョンについて教えてください。

     現状では時間や予算の制約もあり、まだ「夢」の段階ではあるのですが、将来的にはこの場所を、サッカー以外の目的でも人が集まる「地域のハブ(拠点)」にしたいと考えています。

     具体的には、鹿島学園のグラウンドを活用して、キャンプやバーベキューができるエリアを作ったり、カフェを併設したり、夏にはディスカバリー体験学習のようなイベントを開催したりと、コミュニティを広げるための様々な仕掛けを構想しています。

     サッカーに興味がある人だけでなく、そうでない人も集まり、交流が生まれる。グラウンドが単なる競技場を超えて、地域の人々の生活を豊かにするプラットフォームになる。 それが実現できた時、鹿島学園は真の意味で「地域に愛されるクラブ」になれるのだと信じています。これからも、夢の実現に向けて挑戦を続けていきます。

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